「源氏物語 紅梅」(紫式部)

空白の八年間の登場人物たちの変遷

「源氏物語 紅梅」(紫式部)
(阿部秋生校訂)小学館

柏木の弟の按察の大納言は、
先妻を亡くし、
今は真木柱(鬚黒の長女)と
再婚している。
先妻との間に二人と
真木柱の連れ子一人の、
三人の姫君を抱えていた。
大納言は中の君を
匂宮に嫁がせたいと画策するが、
匂宮にはその気が…。

源氏物語「匂兵部卿」「紅梅」「竹河」の
三帖は、
続く宇治十帖への布石であるとともに、
「幻」から「匂兵部卿」までの
空白の八年の中で
登場人物たちが
どのような変遷をたどったかがわかる
しくみになっています。

空白の八年の変遷①
光の消えた六条院のその後

源氏という主を失った六条の院は、
その様相を変えてしまいます。
女三の尼宮は
父帝の遺した三条の宮邸へと移ります。
花散里も六条院を出て、
二条の東院に住んでいるのです。

六条院にそのまま住んでいるのは
明石の君です。
そしてその娘・明石中宮も
里邸としている上、
明石中宮腹の女一宮も、
紫の上の住んでいた
南の町の東の対に住んでいるのです。

空白の八年の変遷②
持ちこたえた夕霧の家庭環境

注目すべきは、夕霧が女二の宮を
六条院に住まわせていることです。
「夕霧」の帖では女二の宮と
強引に婚姻関係を結んだ夕霧ですが、
女二の宮は全く彼に
なびいていませんでした。
そして雲居雁との家庭生活も
崩壊したまま、それ以降の帖では
何も描かれていませんでした。
彼の周辺は一体どうなっていたのか?

なんと女二の宮との夫婦生活も
軌道に乗り(と思われる)、
雲居雁との関係も
修復されていた(と思われる)のです。
六条院の女二の宮と
三条の雲居雁との間を
一日おきで交互に通っているという
記述からそれが窺えます。
なんとも几帳面な夕霧。
彼は、五十路に達したこのときも
まだ真面目一徹だったのです。

空白の八年の変遷③
復興を期す藤原一門

ここで登場する按察の大納言は
柏木の弟です。
彼は三人の娘のうち、
長女大君を東宮妃としています。
東宮にはすでに
夕霧の長女が嫁いでいるのですが、
彼はこれを機に、藤原一門の
巻き返しを図っているのです。

考えてみれば、
頭中将の長女・弘徽殿女御は
秋好む中宮に圧されて立后できず、
雲居雁は夕霧との純愛発覚で
入内できず、
実の娘の一人である玉鬘は
源氏から隠匿され、
長男柏木は急逝し、
権力拡大をことごとく
挫かれてきているのです。
藤原一門の巻き返しのため、
柏木の弟がここに来て(これまでも
地味に登場していた)主役に
躍り出ているのです。

さて、中の君を
匂宮に嫁がせようとした
按察の大納言ですが、
匂宮自身は
継娘の姫君の方に関心があり、
さらには源氏似の浮気性であるため、
婿取りを断念します。
そして宇治十帖につながる一節を
最後に提示して本帖は幕を閉じます。
「八の宮の姫君にも、
 御心ざし浅からで、
 いとしげう参で歩きたまふ」

(八の宮の姫君にもご執心で、
 足繁く出かけている)。

(2020.10.31)

800bikuniによるPixabayからの画像

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